調達担当者にとって、部品のコストダウンは永遠のテーマです。既存の仕入先に値下げ交渉をしたり、海外メーカーから相見積もりを取ったり、さまざまな努力をされていることと思います。
しかし、意外と見落とされがちなのが「そもそもの工法を見直す」というアプローチです。
たとえば、試作段階で切削加工(マシニング)で作った部品を、そのまま量産でも切削で発注し続けているケースは珍しくありません。切削加工は形状の自由度が高く、小ロットでは合理的な選択です。しかし、量産になると話が変わります。
金属部品の製造コストは、大きく分けて「材料費」「加工費(設備・人件費・時間)」「二次加工費」の3つで構成されます。切削加工は材料のブロックから削り出すため、製品にならない切りくず(切粉)が大量に発生します。形状によっては、投入した素材の半分以上が切粉として廃棄されることもあり、高価な合金鋼やステンレス、チタンを使う部品ほど、このロスがそのままコストに跳ね返ります。複雑な形状であれば加工時間も長くなり、1個あたりのコストが下がりにくい構造です。
一方、鍛造(冷間圧造)やダイカスト、MIM(金属粉末射出成形)、プレス加工といった工法では、材料を「削る」のではなく「成形する」ため、材料ロスが少なく、量産時の1個あたりの加工時間も大幅に短縮できます。たとえばねじ・ボルト類では、切削(挽き物)と冷間圧造では生産速度に10倍以上の差が出るとされ、同じ形状でも量産単価がまったく別物になります。
| 比較項目 | 切削加工 | 冷間圧造(鍛造) | ダイカスト | MIM | プレス加工 |
|---|---|---|---|---|---|
| 初期投資(金型等) | 低い | 中〜高 | 高い | 高い | 中程度 |
| 量産時の単価 | 高い | 低い | 低い | 中程度 | 低い |
| 材料歩留まり | 低い(切粉多い) | 高い | 高い | 高い | 中〜高 |
| 形状自由度 | 非常に高い | 中程度 | 高い | 非常に高い | 形状による |
| 寸法精度 | 非常に高い | 高い(後加工併用可) | 中〜高 | 高い | 中程度 |
| 適正ロット | 小〜中 | 中〜大 | 大 | 中〜大 | 大 |
ポイントは、生産数量と部品形状に応じて最適な工法が変わるということです。年間数万個以上の量産品であれば、金型を起こしてでも鍛造やダイカストに切り替えたほうが、トータルコストが下がるケースは多くあります。
「切削以外の工法」を検討する際、最初に悩むのは「どのくらいの数量から投資が見合うのか」という点だと思います。絶対的な正解はありませんが、部品調達の現場では、次のような目安が使われることが多いです。
ただし、数量だけでは判断できません。次の条件が重なると、数量が少なめでも工法切替の効果が出やすくなります。
逆に、年間数量が多くても、形状が頻繁に変わる試作系・開発系の部品や、極めて高い寸法精度や鏡面が要求される部品は、切削のほうが結果的に合理的なこともあります。「量産だから鍛造」と短絡的に決めず、部品ごとに条件を棚卸しすることが重要です。
東南アジアで生産される二輪車の外装部品に使われるナットで、客先図面ではSUM材の切削指定だった案件です。初年度でも年間十万個を超える流動量が見込まれたため、亜鉛ダイカスト化を提案。仕入先・客先設計と図面仕様を直接すり合わせ、切削では成立しなかった量産単価を実現しました。モデル拡大後は年間数十万個規模まで伸びる見通しです。「試作で使った切削をそのまま量産でも」という慣性に流されず、数量の見通しが立った時点で工法を再検討することの重要性を示す一例です。
工法変更を提案しても、現場から次のような声が返ってくることがよくあります。いずれもそれなりに理にかなった懸念ですが、実務的にはクリアできるケースがほとんどです。
長年切削で安定供給してきた部品を別工法に切り替えることへの不安は当然です。ただし、冷間圧造やMIMは、自動車・医療機器・電子部品などミッションクリティカルな領域で長年使われており、工程管理がしっかりした協力メーカーを選べば、切削と同等以上のロット内バラツキに抑えることが可能です。実際、冷間圧造のねじは切削品のようなバリが出ず、表面も鏡面に近い仕上がりになるため、「切り替えたらむしろ品質が安定した」という事例もあります。
確かに、工法を変えると抜き勾配や肉厚、コーナーR(角のアール)といった設計上の制約が発生します。しかし、すべての寸法を変える必要はなく、機能面で支配的な数ヵ所だけ調整すれば移行できる部品も多いです。ポイントは、DFM(Design for Manufacturing、製造性を考慮した設計)の観点で、早い段階で製造パートナーを巻き込むこと。図面の完成後に工法を変えようとするから難しく感じるだけで、設計段階で選択肢として並べておけば、移行コストはぐっと下がります。
これが最も大きな心理的ハードルかもしれません。金型費は数十万円〜数百万円、ダイカストの大型品なら1000万円を超えることもあります。しかし、金型の法定耐用年数は2年、実使用でも30,000〜80,000ショット程度を想定することが一般的で、年間数万個の安定需要があれば、1〜2年で償却が完了するケースも珍しくありません。金型費は「コスト」ではなく、単価を下げるための投資と捉え直すことで、意思決定のフレームが変わります。
一方で、工法変更にはリスクもあります。過去の失敗事例として、次のようなパターンがよく見られます。
いずれも、「工法特性を理解した設計レビュー」を事前に入れておけば回避できる失敗です。量産に入る前の試作・PPAP(量産承認)段階で、実部品での寸法検査・強度試験・表面品質チェックを丁寧に行い、図面側に必要な修正をフィードバックするプロセスが不可欠です。
実際の量産部品では、ひとつの工法だけで完結しないことも多いです。たとえば、基本形状を冷間圧造で成形し、精度が必要な箇所だけを切削で仕上げる「ハイブリッド工法」は、コストと品質を両立する有効なアプローチです。
MIMも同様で、ニアネットシェイプ(ほぼ最終形状)で成形した後、寸法公差がシビアな部位だけ切削やサイジングを追加するのが一般的です。「削る量を最小化する」という発想に切り替えるだけで、素材費と加工時間の両方を圧縮できます。
YUIFABを運営する東京鋲兼グループでは、冷間圧造・プレス・切削・ダイカスト・MIM・焼結・スプリング・樹脂成形などの一次加工に加え、熱処理・めっき・研磨・ショットブラストなどの二次加工まで幅広い加工技術を取り扱っており、部品の特性と生産数量に応じた最適な工法の組み合わせを提案しています。
工法の変更だけでなく、図面上の公差設定を見直すだけでも大きなコスト差が生まれます。
設計上、本当に高精度が必要な箇所と、そこまでの精度が不要な箇所を明確に区別できれば、加工工程を減らすことができます。たとえば、全面に±0.02mmの公差が入っている図面を、機能上クリティカルな2〜3面だけに絞り込むだけで、工程数と検査コストが変わります。表面粗さ(Ra値)も同様で、「どこまで滑らかであれば機能上問題ないか」を設計と製造で合意できれば、仕上げ加工を省略できる余地が見えてきます。
しかし現実には、「図面通りに作る」ことは得意でも、「図面のどこが重要で、どこに余裕があるのか」まで理解している製造パートナーは多くありません。設計意図を汲んだうえで「ここはもう少し緩めても機能に影響しない」と逆提案してくれるパートナーの価値は、近年ますます高まっています。
従来は「冷間圧造+頭部切削」の2工程で造られていた小径軸部品で、頭部の公差がネックとなり長年工程を削減できずにいた案件です。仕入先と何度もすり合わせを重ね、最終的に客先設計から公差緩和の了承を取り付けることで、切削工程を丸ごと廃止。部品単価で10円を超えるコストダウンを実現しながら、供給側の利益率も改善するという両立に至りました。「工法そのものを変える」だけでなく、「残す切削をどう減らすか」という視点でも、設計側との対話は大きな成果を生みます。
もうひとつ、工法・商流を見直すべき外部要因があります。国内製造業の事業承継問題です。帝国データバンクの調査では、2024年の全国企業の後継者不在率は約52%、中小企業庁の試算では2025年時点で約127万社が後継者未定のまま廃業リスクを抱えるとされています。切削加工業を含む中小加工業者の廃業は今後も続くと見られ、「長年付き合ってきた仕入先が来年も存在する保証はない」時代に入っています。
仕入先の一社依存リスクを下げるうえでも、工法オプション・国内外の複数サプライヤーを平時から把握しておくことは、単なるコストダウンを超えた意味を持ちます。品質・納期を維持しながら、サプライチェーンの冗長性を設計するという視点で、調達の棚卸しを行う企業が増えています。