金属部品の調達において、材料選定や仕入先の選定と同じくらい——いや、それ以上に重要なのが工法の選択です。同じ形状の部品でも、切削・冷間圧造・ダイカストのいずれで作るかによって、単価・品質・リードタイム・環境負荷は大きく変わります。にもかかわらず「試作で切削したから量産も切削」「前任者の工法を踏襲」というケースが少なくありません。
本記事では主要6工法の特徴に加え、原価の内訳、数量→形状→精度→コストのディシジョンツリー、境界事例、二次加工、量産移行時の落とし穴まで、調達・設計担当が現場でそのまま使える視点で整理します。
材料を常温のまま金型で叩いて成形する工法。ねじ・ボルト・ナットなどの締結部品から自動車用の特殊形状部品まで広く使われます。
強み: 「削る」のではなく「塑性変形させる」ため材料ロスが極めて少なく、ファイバーフローが切れないので強度に優れます。サイクルタイムも短く、毎分数十〜数百個が可能。
向く条件: 年間数万個以上、軸対称の形状、強度を要する締結部品。複雑形状は後工程で切削を併用するハイブリッドで広げられます。東京鋲兼グループは冷間圧造品が販売製品の約30%を占め、JCIS規格の0番・00番ねじを含む精密締結部品でトップクラスの実績を持っています。
溶湯(アルミ・亜鉛・マグネシウム合金)を高圧で金型に注入する工法。
強み: 薄肉・複雑形状を高精度で量産でき、鋳肌がきれいで後加工が少ない。
注意点: 金型費が高額で鉄系不可、内部に巣が残るため耐圧部品は工夫が必要です。
金属粉末とバインダーを混ぜて樹脂のように射出成形し、脱脂・焼結する工法。
強み: 樹脂成形に近い形状自由度で、ステンレスやチタンなど高硬度材の複雑小物に最適。相対密度は95%以上。
注意点: 焼結時に15〜20%収縮するため寸法管理にノウハウが必要。肉厚4mm以下・均一肉が目安で、大型部品には不向きです。
金属粉末を金型で圧縮成形し、融点以下で加熱して粒子を結合させる工法。
強み: 含油軸受のように多孔質の特性を活かせる(含油率12〜30vol%)。材料歩留まりが高くニアネットシェイプが可能。
注意点: MIMほどの形状自由度はなく、相対密度は85〜93%のため、疲労強度や気密性が厳しい用途では設計上の配慮が必要です。
板金を金型で打ち抜き・曲げ・絞りする工法。順送金型なら複数工程を1台で連続処理でき、ブラケット・端子・カバー類の板物を効率よく量産できます。板厚方向の形状自由度は限られます。
旋盤・マシニングセンタで削り出す工法。金型不要で形状自由度と寸法精度が最も高く、試作・小ロット・高精度部品向き。量産では1個単価が下がりにくく、切粉による材料ロスも大きくなります。
単価は金型費だけで決まりません。原価は次の4要素で構成されます。
ダイカストは金型寿命がアルミで3〜10万ショット、亜鉛で50〜100万ショットと長く、月数万個規模では1個あたりの金型償却が圧造・MIMより小さくなることも。金型費の絶対額ではなく、生涯生産数で割った単価ベースで並べるのが正解です。
ステップ1:生産数量。 年間500個未満は切削・3Dプリンタ、500〜5,000個は切削+簡易金型やプレス、5,000〜5万個はプレス・MIM・焼結、5万個以上は冷間圧造・ダイカスト・順送プレスが有力。
ステップ2:形状。 板物はプレス、軸対称は圧造、薄肉3D筐体はダイカスト、複雑3D小物はMIM、単純な軸受・歯車は焼結、が叩き台。
ステップ3:精度・特性。 公差10μmや鏡面は切削仕上げ必須。気密・耐圧・疲労強度が要るなら焼結は避ける——「外せない条件」で候補を削ります。
ステップ4:コスト・調達。 ここで初めて相見積もり。材質の供給安定性、サプライヤー集中度、金型改修のしやすさまで含めて最終判断。順番を逆にして「まずコストありき」で始めると、数量と形状に合わない工法をねじ込むことになり、後工程で追加費用が発生します。
MIMと焼結の使い分け: 焼結は相対密度85〜93%でコストが低く単純形状向き、MIMは95%以上で強度・気密性が高いが粉末が高価。形状だけでなく要求密度で分けるのが定石で、静荷重の歯車なら焼結、繰り返し疲労がかかるならMIM、という分岐になります。
冷間圧造とダイカストの境目: 鉄系は圧造、アルミ・亜鉛はダイカストが基本線ですが、非軸対称の3D形状で月数万個規模なら、ダイカストの金型寿命と形状自由度が効いて「圧造で鉄→ダイカストで亜鉛」の置き換えが成立することがあります。
プレスと切削のハイブリッド: 板物でも穴位置や座面だけ高精度が要る場合、順送プレスで基本形状を抜き重要寸法のみ切削。この中間を突くと単価を3〜4割下げられることがあります。
国内住設機器の駆動ユニットに使われる遊星ギア系の小型部品。長年MIMや焼結で造られていましたが、月数万個規模という量産数量と形状を改めて見直した結果、亜鉛ダイカストのほうが単価・リードタイム・金型償却のバランスで優位と判断できるケースでした。仕入先と方案を練り直し、ギア歯形を微修正する形で設計側の了承を取ったうえで、MIM→ダイカストへの工法転換を実現。同じ組立ラインの別部品(ギアケース)も後を追ってダイカスト化が進んでいます。
ポイントは「MIMで出ている今の単価」を基準にせず、「この数量・この形状なら本来どの工法がベストか」を白紙から問い直したこと。亜鉛ダイカストは金型寿命が長いため、月数万個流れる部品なら再投資分の償却は数年で終わります。
同じ圧造品でも、熱処理や表面処理の組み合わせで最終単価は1.3〜2倍変わります。熱処理(焼入れ・焼戻し・浸炭)はねじ・ギア・軸物でほぼ必須。表面処理はダイカストなら素地で済むケースもある一方、鉄系圧造品は必ず防錆処理を組みます。切削仕上げはニアネットシェイプの一次加工+重要寸法だけ切削が単価最小化の定石で、圧造+転造、ダイカスト+エンドミル、MIM+研削などの組み合わせが現場の鉄板です。
よくある失敗が「素地の単価だけで比較して、二次加工まで含めた総コストで負ける」パターン。MIMは素地が高く見えても仕上げ代がほぼゼロ、切削は素地が同等でも熱処理・めっきを乗せると総額で高くつく——見積比較は必ず「素地+二次加工+梱包・輸送」の総額で並べてください。
もともと焼結・MIM・ばねで造られていた小物機構部品。競合が多く利益率が下がり続けていたため、仕入先と「これは圧造で成立するのでは」と検討に入った案件です。概算重量と形状から即座に見積を返したことで土俵に乗れ、短納期の試作要求にもすり合わせで応えたことで、焼結からの工法転換が決まりました。圧造化により材料歩留まりが大幅に改善、サイクルタイムも短縮され、ファイバーフローが通ることで強度特性も向上しています。
教訓は、「既存工法での値下げ交渉」ではなく「工法そのものを疑う」視点の重要性。既存品でも10年以上同じ工法で作り続けている/数量が当初想定から大きく乖離/調達先が1社集中/設計変更のたびに切削追加工が積み重なっている——こうした状態のときは、工法そのものを疑う価値があります。